第0章 第16節 至誠の残響と「嘘」の報酬 ― 祈りの転写① ―

・・・・俺はな、嫁に逃げられている。

子供も二人いた。だが、元嫁が連れて俺の前から消えた・・・・。

あの子たちとは物心ついたころ、言葉の意味も、親の顔も知らない時に別れたきりだ。それ以来、ずっと会えていない。

元嫁とはコンタクトすら取れず、子供たちの成長をこの目で見ることも叶わない。今年は何歳になったかな、と、すでに顔すら思い出せないくらいおぼろげになった我が子の歳を数えるのが関の山だ。どんな声で、表情で笑う?何に興味を持っている?それすら、今の俺には知ることはできないんだ。

養育費だけはな、意地でも毎月ちゃんと子供たちの口座に振り込み続けている。それが俺にできる、唯一の「父親である」という証(あかし)だからな。

事情を知った知人たちからは呆れられた。

「そんな状況で、子供にも会えないのに払う必要ないって!」「欲しけりゃ、直接取りに来い!子供を連れてな!とでも言い放ってやれ!」この友人、知人たちは俺の状況を知ると我がことのように憤慨し、俺の肩を持ってくれたが・・・・

これは俺の矜持だ。武人としての誇りを汚されるような気がして、俺はあの子たちが成人するまで、例え会えなくとも払い込んでやる、と思ってはいるのだが・・・・

そう思わねば、俺のヘナチョコな精神の足腰はあっという間に萎える。

俺はその方が恐ろしかった。

入学祝いもあの子たちが喜ぶ姿を想像しながら選んだプレゼントに、図書券を添えて送っていた。あの子たちが人生の糧になるような良書と巡り会ってほしい、そう願いを込めてな。だがな、ある時からその小包が転居先不明で俺の手元に戻ってくるようになったんだ・・・・

戻ってきた小包はそのまま物置に放り込んである。大掃除をするときなどには、いやでも目に留まる。未練がましいと思ってはいるが捨てられない。この未練の残滓を一人で見つめる時、俺の時間は止まる。

 あの子たち、今どこにいるんだろうな・・・・。

まあいい。

もし、もし万が一にでも、このブログを読んで「これ!私のことだ!」って気づいてくれる奇跡でもあれば、向こうから連絡が来るかもしれないわ。

叶うべくもない願いだってことは、自分が一番よく分かっているはずなんだがな。

女々しい男だろう?はははは。

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