だからなのかな・・・・
治療院に莉緒が来た時だけは、俺はあの子をまるで我が子のように可愛がった。
勘違いして欲しくはないのだが、甘やかすだけの「猫かわいがり」じゃないぞ?
俺が本当なら自分の子供に伝えてやりたかった「日本の原風景」・・・・・日本人の矜持、神代から続く日本の歴史と日本人の不屈の闘志、その強さの根源、そして八百万の神々を奉戴する至誠の覚悟。それらを包み込み統合する日本の美しさと日本人の精神性の気高さ。俺の中にある「父としての全ての教え」を、我が子を失い、行き場を失ったその全てを、莉緒という小さな器に、祈るように流し込んだんだ。
そうだよ。
自分に子供がいないという、この胸にぽっかりとあいた巨大な心の隙間をな、俺は莉緒の存在で埋めていたんだよ。
自分の孤独を癒すために子供を利用する。ひどいやつだろう?はははは。
でもな、莉緒は・・・・あの子は知ってか知らずか、俺の不器用な話をいつもニコニコと笑顔で聞いてくれた。心の奥底まで見通せるような澄んだ瞳で俺を見つめてな。そして表情をキラキラさせて「せんせい!つぎは?!つぎは!?」って俺の言葉の続きをせがむんだよな・・・・。
その時だけは、俺の止まった時間が、ほんの少しだけ動き出すような気がしたんだ・・・・。
書き綴りたいエピソードはいっぱいある。
それだけ俺の中で、莉緒との時間というのは濃密で至福の時間だった。
我が子と触れ合えなかった空白を埋め尽くして余りあるほどに・・・・。
莉緒にとっては、ただの「物知りな先生」への好奇心だったのかもしれん。
だがな、それでもいいんだ。
確かに莉緒とお話ししている時間は、俺にとって何ものにも代えがたい、珠玉の温かな思い出だ。
家族を手に入れそこなった不器用で、孤独な男の記憶を・・・・。
莉緒がその光で彩ってくれたんだ。
・・・・・俺のデスクの引き出しには、またもや戻ってきた封筒が眠っていた。 「転居先不明」の赤い印。
中にはあの子たちの入学祝いにと用意した、綺麗な包装紙に包まれたままの図書券が入っている。
暗い書斎の中、無情にも届かなかった我が子へのお祝いのメッセージとともにそれを手にした俺は立ち尽くし、ぼんやりと見つめていた。
行き場を失った愛がただの紙切れとしてそこにある・・・・・。
もうすでに俺はその未練の欠片を目にしても、何の感慨も湧かなくなっていた。

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