第0章 第8節 武術道場へ未来の希望が・・・

私は今日も子どもたちの元気な掛け声を聞きながら、とある武術道場にいる。
そこへ来客があった。

「あのー、見学よろしいでしょうか?」

ああ、親子で武術道場の見学か。
最近は習い事に武術を選択させる親も減ったからな・・・まるで私の手から掬っても掬ってもこぼれ落ちていく美しき日本の憧憬のように・・・・・

「ああ、見学の方ですか。どうぞこちらへ。」

「りお、こちらに来てごあいさつなさい。せんせい、おねがいしますと。」

父親らしき男性の左手を掴んで、歳の頃は・・・・未就学児童か・・・亜麻色のつややかな髪をきれいにツインテールで結んだ少女がおずおずと進み出た。

「・・・・・はじめまちて。りおといいます。よろしくおねがいちます!」

最後の方は一気にいいきるとぴょこんとおおきくお辞儀をし、ふたたび父親らしき男性の後ろに引っ込んでしまった。

緊張しているのかな?

この時分の子どもたちにとって、緊張で滑舌が悪くなるのはよくあることだ。私はついつい職業病とでも言うべき「癖」で件の少女へ、するとはなしに望診を始めた。

(ほう、なかなかしつけが行き届いている。姿勢も髪の乱れもない。

そして何より顔の血色が良い。親の生活が規律あるものとして、この少女に宿っているな。

そしてその声の張りだ。恥ずかしさで最初は戸惑っていたが、最後は覚悟を決めたように大音声ではっきりと言い切った。この子は・・・・)

「あの、この子、「強くなりたい!!」って最近何度も何度も言うんです。私も武道とかそっち方面の知識がなくて・・・・ちょうど「入門者募集。見学歓迎」の張り紙を近所で見かけたものですから・・・・」

「ああ、構いません。入門のきっかけは人それぞれですから・・・」

私は膝をついて少女に目線を合わせ、男性の後ろで恥ずかしそうにモジモジしている少女に向き合った。

「りお・・・・ちゃん、といったかな?いま君はいくつかな?」

今度ははっきりと私の目を正面から直視し、男性の後ろから進み出て元気な声で言った。

「6さいですっ!らいねんはね、りお、しょうがくせいになるんだ!おとうさんとおかあさんといっしょにランドセル買いに行ったの!りお、ね!はやくしょうがっこうにいきたいな!」

純粋な生気のほとばしりに触れ、私は反射的に頬が緩んでしまった。

彼女の瞳が、私の枯れ果てていた心を映し出し、温かな光として跳ね返してきたのだろう。

私が数年来忘れていた笑みを、彼女はその無垢の言霊で引き出してしまったのである。

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