第0章 第4節 莉緒、神域まで駆ける

翌朝、莉緒は息せき切って件の神域に家から駆けつけた。

莉緒の額には珠のような汗が浮かび、首筋の後れ毛は汗で張り付いている。莉緒の大好きな髪型のツインテールはお母さんに毎日丁寧に結ってもらっているものだ。
「はあっ、はあっ・・・・んっくん。はあっ・・・・。」
莉緒は鳥居の前で、いつも通り元気いっぱいお辞儀をして、あいさつした。

「かみさま!おはようございまちゅっ!きょうもあそばせて、くだちゃぃ!」元気が良すぎて、終いの方は噛んでしまったがそれは御愛嬌だ。神域の神様も莉緒の大真面目なご挨拶に微笑んでくださるに違いない。

鳥居から拝殿を臨むとそこに、瀬織はいた。

玉砂利の参道のすぐ端で降り注ぐ木漏れ日の下、彼女はまるでそこだけ時間が止まったかのように、懐に大事なものを抱えるよう、静かに腕を組み佇んでいた。

 身に纏っているのは、空の欠片を丁寧に染め抜いたような、スカイブルーのリネンワンピースだ。良家の子女らしい慎ましさを感じさせる詰まった丸襟には、繊細な白い糸で野の花の刺繍が施されている。

 胸元に並んだムーンストーンのボタンは、御手洗の流水と共鳴するように、ぼんやりと青白い光を帯びて揺れている。それは神域に漂う「たまゆら」の輝きを、そのまま縫い止めてしまったかのようだった。

 緩く編み下ろした髪には、ワンピースと同じ色のスカイブルーのサテンリボンが結ばれている。その結び目には、一粒の透明なガラスビーズが飾られており、差し込む光を透過して、彼女の肩口に小さな虹の欠片を落としていた。

 彼女の静かな存在感は、その装いと共に神域の景色へ、静かに、深く溶け込んでいた。

「せ・お・りちゃぁーん!おっはよおー!約束通り、りお!来ったよー!」

莉緒は鳥居をくぐると玉砂利の端のほうを一気に瀬織の佇む拝殿前まで走り抜けた。

瀬織の背後には拝殿があり、その両脇を阿吽の狛犬が瀬織を守るように鎮座している。

瀬織が佇む神域の神威には頓着することなく、莉緒は息を弾ませながら、瀬織の眼の前に立つと太陽のように眩しい笑顔を瀬織にむけた。

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